Mac上のOpenJDK/OracleJDKはApple実装モジュールへの依存が残っている

はじめに

Mac OS X 向けの Java 実装はかつて Apple 自身が開発、提供していました。ですがそれは 6 で終了し、7 以降は Apple も OpenJDK に参加、OpenJDK 上で OS X 向け実装も開発されるようになり、Oralce から Mac OS X 向け JDK/JRE を提供されるようになっています。

ところが、全てが OpenJDK に移ったわけではなく、一部 Apple が実装、メンテナンスしているモジュールへの依存が残っていることを知り、ちょっと驚いたのでその内容についてまとめてみました。

Yosemite以降の新Look & FeelへのSwingの対応について

これに気付いたきっかけは、Mac OS X の UI デザインが Yosemite で一新されたことです。

JavaGUI ツールキットの 1 つである Swing は、OS の UI ツールキットが提供するコントロールを直接利用せず、Java2D を使って自分でコントロールを描画します。OS の UI ツールキットに似せた見た目にする、システム Look & Feel もありますが、これは自分で描画して似せているだけです。

さて、Mac OS X では Yosemite になって Look & Feel が一新されましたが、Swing については Swing 側が対応しない限り見た目は前のままのはずです。実際、次のスクリーンショットのように Mavericks 以前の Look & Feel のままでした。
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最近、家で使っているマシンを新しく Mac mini に変えました。これには El Capitan がプリインストールされているのですが、こちらでは Swing の Look & Feel が Yosemite 以降のそれに変更されていたのです。
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Java のアップデートで対応したのかな?と思って、別にある Yosemite 環境のマシンについても Java を最新版にしました。ところが、JRE のバージョンが全く同じなのに、こちらでは古い Look & Feel のままなのです (上 2 つのスクリーンショットJava バージョン表記を確認してください) 。

これは一体どういうことなのだろうと不思議に思って、調べてみました。すると、OpenJDK の ML に次のようなスレッドがあるのを見つけました。

http://mail.openjdk.java.net/pipermail/swing-dev/2015-September/004855.html

そこでは次のような説明がありました。

The Aqua look and feel is based on the JRS library, which is provided by Apple. As far as I know the Apple provide the new "modern style controls" in the new version of JRS in OS X v10.11. You can ask additional information on java-dev mailing list at apple.com [1]

Mac OS X の Aqua 風 Look & Feel については Apple が提供している JRS と呼ばれるライブラリによって提供されているとのことです。そして OS X 10.11 (つまり El Capitan) では新しい JRS が提供され、その JRS では新しい Look & Feel に対応しているため、El Capitan でだけ Swing の見た目がアップデートされたということになります。

JRSとは何か?

JRS の正式名称は JavaRuntimeSupport になります。実体は以下の場所にありました。

/System/Library/Frameworks/JavaVM.framework/Versions/A/Frameworks/JavaRuntimeSupport.framework/Versions/A/JavaRuntimeSupport

この JRS は OpenJDK には含まれておらず、ソースコードApple によってメンテナンス、提供されているとのことです。次の Apple の開発者向け ML にその点を説明するスレッドがありました。

http://lists.apple.com/archives/java-dev/2015/Dec/msg00007.html

これには驚きました。最初に述べたように Java 7 以降の Mac 上の Java 開発は OpenJDK に移行したはずです。それなのに、Apple 側から OS アップデートを通して提供されるモジュールがなければ変わらない部分があったということです。UI の Look & Feel に関わる部分であるため、意匠権絡みなどで移せない事情でもあったのでしょうか?

今後はどうなる?

というわけで Mac 環境における OpenJDK (Oracle JDK) には Apple 実装モジュールへの依存が残っていることが分かりましたが、少し不安なところがあります。というのも、Apple は旧 Apple Java 6 のサポートは El Capitan を最後にすると宣言しているからです。

applech2.com

そのため、JRS のような Apple 提供モジュールの更新も今後行われなくなる可能性があります。OpenJDK 側でもこの状況については Issue が上がっていますが、さてどうなることやら...。

[JDK-8024281] Mac OS X: stop relying on Apple's JavaVM Frameworks - Java Bug System
https://bugs.openjdk.java.net/browse/JDK-8024281

おまけ

Apple Java 6 は El Capitan が最後のサポートバージョンになるとのことですが、その El Capitan 向けインストーラApple から提供されています。 *1

ダウンロード - Java for OS X 2015-001
https://support.apple.com/kb/DL1572?locale=ja_JP&viewlocale=ja_JP

このインストーラYosemite 以前のバージョンにも使うことができます。しかもこのインストーラでインストールされる Java 6 には、El Capitan 向けの JRS がバックポートされています。よって、Yosemite にこのインストーラを使って Java 6 をインストールすると、次のように Yosemite でも Swing の Look & Feel が新デザインに変わります!
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*1:El Capitan ではこのバージョンで導入された rootless の関係で、以前のインストーラが使えなかったようです